雑多

色々書く

救いの花

 

棚ぼた

俺と藤の生活が始まって一週間が経った。気づいたことが一つ、藤はわりとハイスペックだった。棚からぼた餅とはこのことだ。

俺の苦手とする家事、炊事をやらしてみると、器用にこなすその姿。拾った犬は存外有能なペットだったのだ。

この器用さなら掃除屋稼業も案外簡単にやってのけるんじゃないかと期待してしまう自分がいるが、それはまだ時期尚早だろう。そもそもそういうことができるタイプなのかも見定めないといけないのだ。ぶっちゃけ人を殺したことがある、と言ったあの言葉でいけるかもしれないと既に自分の中では決定しているところはあるのだが。

出会った初日人を殺してあんなにやつれていた藤は、風呂に入らせてデリバリーのピザを頼むと速攻で全部食べて寝やがったのだ。この肝の座りっぷり、人を殺した人間とは思えない。

順応性もあるし細かいことも得意そうだ。あとは技術を身につけさえすれば俺の助手にはぴったりなんじゃないか。

などと藤の作ったオムライスを食べながら妄想をしていると、目の前に座る藤が怪訝そうな顔で俺を見つめてくる。

「万年青さん、アンタ…」

「な、何だよ」

「こんなに掃除も料理も家事もできねえなんてアンタそれでも20半ばか?!俺はマジで心配して言ってんですよ。俺がいない間どうやって生活していたんですか……怖くて想像もできないですけど」

「そっちかよ」

「他に何があるって言うんですか」

相当俺の駄目人間っぷりがわかってしまったらしい。藤はスプーンを震わせて立ち上がってそう捲し立てたと思いきや、すぐに落ち着いてオムライスをつついた。

俺の生活能力の無さはたぶん他人に任せっきりの人生を送ってきたからに他ならないが…まさか親より怒られることになるとは。

俺の妄想がバレたかと思って焦ったが、藤はぷりぷりと怒りながらトマトスープをすすっている。俺がご馳走様。美味しかった。と言えばお粗末様でした!と返してくれる。案外いい相棒になるのでは…?とやはり俺は期待してしまう。もういっそのこと言ってしまおうか。準備は早いに越したことないし、藤がいれば色々な依頼も受けられるかもしれないし。

ソファに座って藤の入れたコーヒーを啜る。相変わらずうまい。

キッチンで洗い物してる藤に意を決して名前を呼ぶ。

「あのさ〜藤くん」

「何ですか。食後のデザートにプリンありますけど食べますか」 

「わ〜い食べる。……じゃなくて。真面目な話なんだけど」

「えっ…何すか、もしかして食費のこと……」 

「ちげぇよ育ち盛りは死ぬほど食べろよ」

中々話が進まない。藤はもうこの家から追い出されることはないと思ってんだろうなと察してしまう。それもそのはずだな、と自分の駄目っぷりに落ち込んでしまいそうになった。

仕切り直して、ローテーブルの近くにあるクッションに腰を落とす藤に視線を向ける。

煙草に火をつけてゆっくり煙を吐き出した。

「藤くんはさぁ、俺のやってる仕事のこと知らないよね」

「あぁ、まぁでもまともな仕事ではないような気はしてますけど」

「ふ、そうだね。まぁ単刀直入に言うと掃除屋…人を殺す仕事をしてる。他にも犯罪レベルのことは色々やってるし、マフィアのファミリーやらギャングやらの付き合いもある。その下請けをやったりな。前まで俺と上司の2人でやってたんだけどさ、ついこの間その上司がいざこざに巻き込まれて死んじまって…一人になっちゃってさぁ。困ってたところに藤くん、アンタを拾ったわけ。……ここまで言えばわかるよね」

中々端折りながら説明したが、ここまで言えばあとは何を求められるかわかるだろう。

灰皿に煙草を押しつけて二本目を取り出す。藤は座ったまま動かない。

これで無理と言われても別に追い出す気はないが、やってくれたら嬉しいかな〜なんて、

「いいすよ」

「え?……え?マジで?簡単に言うじゃん」

「いやさすがに嘘だろ?ってなってますけど…。一緒にその仕事やってくれってことですよね?…まぁ俺にその才能があるかどうかわかんねえすけど、一応恩は返すんで。つーかもう腹括ってます」

「うそ〜マジか〜。そっか、……よかった」

「それだけですか?プリン食いましょう」

「お前もしかしてプリン食いたかったからこの話早く終わらせたんだろ………」

「気のせいです」

こいつはやっぱりこの仕事に向いてるかもしれないと確信した1日だった。

安堵の溜息を漏らす。ようやっと前に進めるな、これで。

冷蔵庫からプリンを持ってきた藤は年相応の顔をしていて、少しの罪悪感はあれど、新しい相棒に喜んでいる自分がいた。

そして相変わらずプリンは美味しかった。